ヒアルロン酸は保湿成分のひとつであり、肌のうるおいを保つうえで欠かせない成分です。近年では化粧品やサプリメントなどに幅広く使用され、多くの人に知られる存在となりました。しかし、ひと口でヒアルロン酸といっても、実は分子量によって性質が異なることはご存じでしょうか?
化粧品に含まれるヒアルロン酸にはいくつか種類があり、とくに高分子ヒアルロン酸と低分子ヒアルロン酸とではそれぞれ性質や肌に対する働きも違います。
この記事では化粧品に含まれるヒアルロン酸の種類や、高分子・低分子のヒアルロン酸の特徴について詳しく解説します。ヒアルロン酸の種類について詳しく知りたい方、ヒアルロン酸の種類の違いを知って自分にあった化粧品を選びたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
ヒアルロン酸とは

ヒアルロン酸とは、ムコ多糖とよばれる糖が鎖のように連なった構造をしている成分のひとつです。体内では肌や関節、目などに多く含まれており、非常に高い保水力(水分を抱え込む力)をもちます。
ヒアルロン酸を含むムコ多糖は、ぬるぬる・ネバネバとした性質をもつのが特徴です。体内では細胞と細胞のすき間を埋めるように存在し、水分を保持しながらクッションのような役割を果たしています。これにより外部からの刺激から細胞を守ったり、細胞の増殖や移動、分化を助けたりする働きをします。1
またヒアルロン酸は関節液を構成する成分のひとつです。関節を動かすときの摩擦や衝撃を和らげることで、関節の動きをスムーズにします。
このようにヒアルロン酸は美容面はもちろん、健やかな生活を送るうえでも重要な成分といえます。
肌におけるヒアルロン酸の役割

ヒアルロン酸は水分を多く抱え込む性質があるため、肌ではうるおいを保ち、ハリのある肌を作ることが主な役割です。

肌の外側は「表皮(角質層を含む)」と、「真皮」で構成されています。ヒアルロン酸は真皮層に多く含まれ、コラーゲンやエラスチンの間を埋めるように存在し、水分を保持してハリや弾力のある肌を作り出します。また表皮層にも存在しており、肌のうるおいやバリア機能※を支えています。2
しかし、ヒアルロン酸は年齢とともに減少していきます。肌のヒアルロン酸の量が少なくなると、うるおいやハリが失われやすくなり、シワやたるみ、乾燥による肌トラブルが起きやすくなる可能性があります。
- バリア機能:肌の一番外側の角質層が、外部の刺激や病原体から肌を守り、内部の水分を逃がさないようにする働きのこと。
分子量による性質の違い

ヒアルロン酸は、グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンという2種類の糖が交互に連なって構成されています。この2つの糖の繰り返し回数によって分子量が変わり、低分子、高分子と分けられます。ヒアルロン酸は分子量によって性質や特徴に大きな違いがあるため、それぞれ詳しく説明します。
高分子ヒアルロン酸

自然界に存在するヒアルロン酸は、2種類の糖が繰り返し連なっている構造のため、高分子の状態で存在します。高分子ヒアルロン酸は一般的に分子量が100万以上のものをいい、粘度が高くとろみのある触感が特徴です。
肌表面では水分を豊富に含んだ膜を作り、内側からの水分の蒸発を防ぎます。これにより肌のうるおいをキープし、外部からの刺激から肌を守ります。分子量が高いため角質へ浸透することはできませんが、肌表面にとどまることで高い保湿効果を発揮します。
低分子ヒアルロン酸

低分子ヒアルロン酸とは、高分子のヒアルロン酸を人工的に細かく切ったものです。低分子であることから肌の角層に浸透しやすく、肌内部にうるおいを与えてくれます。3また体内で吸収されやすいというメリットもあることから、近年では低分子ヒアルロン酸を含むサプリメントや美容ドリンクの販売が増えています。
分子量に明確な決まりはありませんが、1〜10万以下のものを指すことが多いです。
化粧品に含まれるヒアルロン酸の種類

化粧品によって含まれるヒアルロン酸の種類はさまざまです。近年ではヒアルロン酸の開発が進み、アセチル基などを導入し皮膚への吸着性を改良したものや、分子量1 万以下に低分子化したものなどがあります。それぞれの成分の特徴について解説しますので、商品を選ぶ際の参考にしてみてください。
ヒアルロン酸Na

一般的な高分子のヒアルロン酸です。ヒアルロン酸は肌において生理条件などによりpH7付近でナトリウム塩の形で存在するため、化粧品の成分表にはヒアルロン酸Naと表記されることが多いです。4
平均分子量100万以上と高分子であり、肌表面でうるおいの膜を作ることで水分の蒸発を防ぐのが主な働きです。乳液やクリームなどのスキンケア製品をはじめ、ボディケア製品やハンドケア製品など、しっとりとした使い心地の製品に含まれます。
加水分解ヒアルロン酸

加水分解ヒアルロン酸は、高分子のヒアルロン酸を酵素などで分子量1万以下に低分子化したものです。
分子量がヒアルロン酸Naと比べ非常に小さく、肌の角質奥まで浸透することで肌内部にうるおいを与えます。さらさらとした触感が特徴で、水に溶けやすい性質です。化粧水や美容液などのさらっとした使用感のスキンケア製品に使われます。
アセチルヒアルロン酸Na

ヒアルロン酸Naの水酸基の一部をアセチル基に変え、肌への親和性を上げた成分です。保湿の持続力も優れていることから、「スーパーヒアルロン酸」とも呼ばれます。
平均分子量15万と比較的小さく、角質層への浸透性も優れています。ベタつきにくく、さっぱりとした使用感が特徴で、角質を柔らかく整える効果も期待されている成分です。スキンケア製品やボディケア製品などに幅広く用いられています。56
加水分解ヒアルロン酸アルキル(C12-13)グリセリル

加水分解によって低分子化したヒアルロン酸に、アルキル基を導入した成分です。アルキル基を入れることにより疎水性(油に馴染みやすい性質)が高まり、肌への浸透、密着性が向上します。
肌のバリア機能を修復する働きも確認されている成分のため、「ヒアロリペア」とも呼ばれます。スキンケア製品などに幅広く用いられており、肌荒れしやすい時期におすすめの成分です。7
カルボキシメチルヒアルロン酸Na

ヒアルロン酸Naにカルボキシ基を導入することにより、水分を取り込む力を向上させた成分です。カルボキシ基同士が反発することにより水分を取り込むスペースが増え、ヒアルロン酸Naの約3倍の保水力をもちます。8
分子量は20万〜120万ほどと製品によって差があり、低分子と高分子の間くらいに位置します。高い保湿効果を持ちながら、同分子量のヒアルロン酸Naよりベタつきや粘度が少なく、使い心地の良い成分とされています。スキンケア製品やボディケア製品など幅広く使われています。
ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム

ヒアルロン酸の一部をカチオン化(陽イオン化)することで、肌や髪への吸着性を高めた成分です。肌や髪は通常マイナス(陰イオン)に帯電しているため、プラスとマイナスが引き合う性質を利用することで吸着性を高めています。
高分子であるため浸透はしませんが、肌や髪の表面で高い保湿効果を発揮します。水にも流されにくく、うるおいを長時間キープすることが可能です。9ヘアケア領域では、髪表面に吸着しなめらかな質感を与えることから、シャンプーやコンディショナー、トリートメントなどによく使われます。
一覧で成分を比較
| 成分名 | 分子量 | 主な働き・特徴 | 使用感 | 主な配合製品 | 備考・別称 |
|---|---|---|---|---|---|
| ヒアルロン酸Na | 約100万以上 (高分子) | 肌表面で水分を保持し、うるおいの膜を形成 | しっとり | 乳液 クリーム ボディケア | 一般的なヒアルロン酸、皮膚のpH付近で存在 |
| 加水分解 ヒアルロン酸 | 約1万以下 (低分子) | 角質層まで浸透し、内側から保湿 | さらさら 軽め | 化粧水 美容液 | 細かい浸透性が特徴 |
| アセチル ヒアルロン酸Na | 約15万 (中分子) | 肌への親和性が高く、保湿持続性に優れる | さっぱり べたつきにくい | スキンケア ボディケア | 「スーパーヒアルロン酸」とも呼ばれる |
| 加水分解 ヒアルロン酸 アルキル(C12-13)グリセリル | 低分子+疎水性 | 肌への密着性・バリア修復・保湿力向上 | なめらか しっとり | スキンケア全般 | 「ヒアロリペア」とも称される |
| カルボキシメチル ヒアルロン酸Na | 約20万〜120万 (中〜高分子) | 水分保持力が高く(約3倍)、べたつきが少ない | みずみずしい 軽め | 乳液 ボディケア | ヒアルロン酸Naより軽い使用感 |
| ヒアルロン酸 ヒドロキシプロピル トリモニウム | 高分子 (カチオン化) | 肌・髪に吸着し、保湿膜を形成。水に流れにくい | しっとり なめらか | シャンプー トリートメント | 髪のなめらかさ向上に使われる |
分子量で変わるヒアルロン酸の取り入れ方

ヒアルロン酸は分子量により特徴や働きが大きく変わります。この章ではヒアルロン酸配合の化粧品やサプリメントを選ぶ際のポイントについて、分子量に注目しながらお伝えします。
化粧品を選ぶ際のポイント

高分子のヒアルロン酸は、分子量が大きいため肌の表面にとどまりやすく、「保護膜」のような役割をします。これにより肌のうるおいを逃がしにくくするのが特徴です。
一方、低分子ヒアルロン酸は、分子量が小さいため、肌の角質まで浸透できるのが大きな特徴です。
使用感についても大きな差があります。
高分子ヒアルロン酸を含む化粧品は、しっとりとした、ややベタつきを感じる使用感となります。
ベタつきが苦手な方は、さらっとしていて軽い使用感の低分子ヒアルロン酸配合の化粧品を選ぶと良いでしょう。
サプリメントを選ぶ際のポイント

体の内側から肌や関節をケアする目的として、ヒアルロン酸を含むサプリメントを取り入れる方も増えています。
口から取り入れたヒアルロン酸は大腸の腸内細菌で分解された後に吸収され、肌や関節へ移行することが確認されています。10しかしヒアルロン酸は本来高分子であり、分子量が大きいため、そのままの状態では体内で吸収されにくい成分です。そのため近年では低分子化されたヒアルロン酸を含むサプリメントも増えてきています。

ヒアルロン酸の種類や分子量は目的に合わせて決めよう
本記事では、ヒアルロン酸の種類や分子量による性質の違いについて解説しました。ひと口にヒアルロン酸といっても、分子量によって肌に対する働きは大きく変わります。
商品を選ぶ際は、パッケージなどに記載されているヒアルロン酸の種類を確認し、自分の肌悩みや目的に合った成分かどうかチェックしてから購入しましょう。
自分にぴったりのヒアルロン酸配合の商品を見つけ、うるおいとハリのある美しい肌を手に入れましょう。
参考文献
- Giorgia Natalia Iaconisi. Hyaluronic Acid: A Powerful Biomolecule with Wide-Ranging Applications—A Comprehensive Review.2023 Jun 18;24(12):10296. ↩︎
- ヒアルロン酸の基本情報・配合目的・安全性. 化粧品成分オンライン ↩︎
- 加水分解ヒアルロン酸の基本情報・配合目的・安全性. 化粧品成分オンライン ↩︎
- ヒアルロン酸Naの基本情報・配合目的・安全性. 化粧品成分オンライン ↩︎
- アセチルヒアルロン酸Naの基本情報・配合目的・安全性. 化粧品成分オンライン ↩︎
- 岡 隆 史. 高分子保湿剤スーパーヒアルロン酸 両親媒性高分子アセチル化ヒアルロン酸の開発と化粧品への応用 ↩︎
- 加水分解ヒアルロン酸アルキル(C12-13)グリセリルの基本情報・配合目的・安全性. 化粧品成分オンライン ↩︎
- カルボキシメチルヒアルロン酸Naの基本情報・配合目的・安全性. 化粧品成分オンライン ↩︎
- ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムの基本情報・配合目的・安全性. 化粧品成分オンライン ↩︎
- 木村 守. 経口摂取ヒアルロン酸の吸収 ↩︎

